今回は、引き寄せの法則はなぜ効かないのか、というお話です。引き寄せの法則が効かない理由を、理論の中にある矛盾から見ていきます。また、引き寄せに代わる新しいモデルについてもお話ししたいと思います。
僕は2013年からコーチングのブログを運営して、ゴール設定や自己イメージについての記事を900本以上書いてきました。思考が現実を作るという考え方を、教える側にいた人間です。その僕が10年かけて検証してきた結果、この理論にはどうしても説明のつかない矛盾がある、という結論に至りました。
長年引き寄せをやってきたけれど人生が変わらない、という人にこそ読んでほしいと思います。効かなかった理由は、あなたの波動でもイメージ力でもないからです。
引き寄せの法則の意義
これから批判をしていきますが、引き寄せの法則には一定の意義がありました。まずその意義を確認しておきます。
引き寄せの法則がこれだけ広まったのは、部分的には本当のことを言っているからです。
人は、自分が当たり前だと思っている範囲の中で行動を選んでいます。この当たり前だと思っている範囲のことを、コーチングではコンフォートゾーンと呼びます。「どうせ無理だ」と思っている人は挑戦しませんし、挑戦しなければ結果も出ません。つまり、内面のあり方が行動を決めて、行動が結果を決めるという因果は実在します。
だから、考え方を変えれば人生が変わる、という教え自体は嘘ではありません。僕が10年この世界にいたのも、この本当の部分があったからだと思います。
問題は、この本当の部分に「あなたの思考が宇宙を作っている」「願えば宇宙が応えてくれる」という主張が接ぎ木されていることです。ここからは、この主張のどこがおかしいのかを、順番に見ていきます。
タイムラグという説明の矛盾
引き寄せの教材には、ほぼ必ずこう書いてあります。
「物理次元では、願いが現実化するまでにタイムラグがあります」
しかし、よく考えてみると、これはおかしな説明です。思考が現実を直接作っているのだとしたら、なぜ時間がかかるのでしょうか。
時間がかかるというのは、原因と結果が順番に連鎖していくときの性質です。たとえば種を蒔いてから芽が出るまでに時間がかかるのは、発芽のプロセスがひとつずつ順番に進むからです。
つまり「時間がかかる」と認めた時点で、その効果は普通の因果の連鎖を通って伝わっている、と認めたことになります。
たとえば、考え方が変わったことで選択が変わり、進む方向が変わって、まわりの条件が変わっていく。これはひとつの流れにすぎませんし、道筋はいつも同じではありません。ただ、どの流れをたどるにしても、変化は条件から条件へ順番に伝わっていきます。だから時間がかかるのは当然です。そしてこれは、宇宙が願いを叶えてくれたわけではありません。あなたから始まった変化が、条件を変えただけです。
冗談のようですが、突き詰めるとこうなります。宇宙に注文したのに納期がかかるのは、配送しているのが宇宙ではなくて、あなた自身だからです。
タイムラグという説明は、引き寄せの理論が「実は普通の因果でした」と自分から認めてしまっている場所なのです。
引き寄せの達人が大富豪にならない理由
ここで考えられる反論として、「タイムラグがあっても、最後に願いが叶うならいいではないか」というものがあるでしょう。
それでは、実際のところを見てみましょう。
もし思考が現実を作るのなら、引き寄せを極めた人は、原理的には大富豪になれるはずです。イメージ力と潜在意識の達人だからです。
ところが、世界の大富豪のリストを上から見ていっても、引き寄せの達人は出てきません。出てくるのは、事業を作り、投資をして、ときには冷徹なほど合理的な判断をしてきた人たちです。
では引き寄せの先生たちはどうしているのかというと、たしかに少し豊かにはなっています。しかしその収入源を見ると、引き寄せで引き寄せたのではなくて、引き寄せの教材やセミナーを売るというビジネスをコツコツやって稼いでいます。
これは冷静に考えるとおかしなことです。宇宙に注文すれば届くはずの人たちが、全員、商売をしているからです。
僕はここに気づいたとき、ショックを受けました。結局「好きなことでビジネスをやって、毎日コツコツ頑張りましょう」という話なのであれば、引き寄せはいらないからです。
ただ、この観察には説明がつきます。効果の大きさは、本当の仕組みの大きさと一致するのです。内面のワークで実際に変わるのは、不安が減る、行動が少し良くなる、という範囲のことです。だから結果も、少し豊かになる、というところで止まります。事業や投資のような、現実の仕組みを直接動かした人だけが、大きな富に届きます。
観測されている事実と、この説明はぴったり一致しています。
「すべて実現している」という論法
もうひとつ、引き寄せ系の講座でよく使われる説明があります。
「あなたは会社が嫌だと言いながら、会社に行っていますよね。それは、給料がある状態をあなたが選んで実現しているんです。ほら、潜在意識はすべて実現しているでしょう?」
僕はこれを初めて聞いたとき、うまいことを言うと感心してしまいました。しかしこれは、よくできたトリックです。
この例が証明しているのは、人は与えられた条件の中でマシな方を選ぶ、ということだけです。嫌な会社と無収入であれば、嫌な会社を選びます。それだけの話です。
条件の中で選ぶ力と、条件そのものを作り変える力は、別物です。実演で見せているのは条件の中の選択なのに、売っているのは条件を書き換える力です。見せているものと、売っているものが違うのです。
しかもこの論法は、何が起きても「それをあなたが選んだのです」と後から言うことができます。うまくいったら引き寄せのおかげになり、うまくいかなかったらあなたの潜在意識のせいになるからです。
何が起きても正しい理論というのは、何も予測していない理論と同じです。
前提知識として縁起
批判だけで終わるのは無責任ですので、僕がたどり着いた代わりのモデルをお話しします。そのための前提知識として、仏教の縁起という考え方をざっくりと解説します。
縁起とは、相互依存の関係性のことをいいます。すべてのものは、それだけで独立して存在することができず、他のものとの関係の中でしか成り立たない、という考え方です。
引き寄せの世界観では、自分の意識が一方的に世界を作ります。矢印が「自分→世界」の一方向です。
縁起はそうではありません。矢印が双方向です。自分は、世界に影響を与える無数の条件のひとつです。そして同時に、自分自身も、世界の無数の条件から作られています。
この違いは、地味に見えて決定的です。
自分が条件のひとつなのだとしたら、影響力は本物ですが、部分的です。考え方を変えれば人生は変わる、ただし変わる幅は、自分という条件の大きさに比例します。
だから、内面のワークだけをやった人は小さく豊かになり、会社や資本のような、もっと大きな条件のかたまりを作った人は、大きく豊かになります。引き寄せの先生と事業家の差は、これで説明がつきます。
そして、ここが一番言いたいところなのですが、引き寄せが効かなかったのは、あなたの波動が低いからではありません。疑いの心があったからでもありません。理論の側が、一方向しかない矢印を売っていたからです。
10年信じてダメだった人は、10年分の努力が足りなかったのではなくて、渡された地図が間違っていたのです。
宇宙銀行や神様を信じることについて
ここまで読んで、それでも宇宙や神様のような大きな力を信じていたい、という人もいると思います。
先に言っておくと、本気で信じ切れている人は、それでいいと思います。宇宙銀行や神様のような大きな力を想定することには、常識の枠が外れるという効果もあるからです。自分の常識の中だけで考えていたら出てこない発想が、大きな力を想定することで出てくることはあります。
問題は、どこかで疑っている場合です。
宇宙や神様というのは、自分では変えられないものです。願いを聞いてくれるかどうかは、向こう次第です。だから、どこかに疑いがある状態でそういうものに頼っていると、逆に不安になっていきます。自分の人生の結果が、自分の手の届かないところで決まることになるからです。
それよりも、超常的な力ではなくて、自分次第で何かを変えることができる、と思えているほうが、自分の感覚としてもよくなっていきます。この、自分が世界に影響を与えることができるという感覚のことを、コーチングでは自己効力感、エフィカシーと呼びます。
たとえば、1億円で考えてみましょう。
自分では1億円を稼げないと思っているから、宇宙にすがって1億円の宝くじが当たるのを待つのか。それとも、自分が1億円を作れると思っているのか。この違いです。
宝くじは、当たったらいいと思います。でも、宝くじの1等くらいのお金を、毎年、確実性の高い方法で得ている人たちもいます。そうなるのが正しい、というわけではありません。ただ、このことからも、世界がどういうルールで動いているのかは、わかるのではないでしょうか。
本当の部分の使い方
最後に、最初に確認した本当の部分の使い方をお話しします。
内面が現実に影響する道は実在します。認識が変わると、入ってくる情報が変わり、行動が変わり、無意識レベルの選択まで変わっていくからです。
大きな目標を持つと、いままで視界に入らなかった選択肢が見えるようになります。認識が変わると、同じ景色から拾える情報が変わるからです。そして、見えた選択肢の中から今までと違う選択をすれば、そこから先の現実が変わっていきます。道筋は、ひとつではありません。
ここで大事なのは、この変化は意識的な努力だけで起こるわけではない、ということです。
無意識の選択が変わることによって、自分でも気づかないうちに行動が変わっていることもあります。思いがけない出会いやきっかけが訪れて、そこから変わっていくこともあります。セレンディピティと呼ばれるものです。だから、必ずしも直線的な努力の積み上げではありません。
ただし、これは魔法ではありません。脳にはRAS(網様体賦活系)という、どの情報を意識に上げるかを決めるフィルターの仕組みがあります。目標を持って認識が変わると、このRASの設定が変わって、いままで素通りしていた情報や機会が意識に入ってくるようになります。偶然に見えるものも、この設定が変わったことの因果の中で起きているのです。
引き寄せを実践した人が「偶然が増えた」「向こうからやってきた」と感じる体験の正体は、おそらくこれです。体験そのものは本物です。ただ、それを起こしていたのは宇宙ではなくて、あなたの脳の設定変更だったということです。
だから、正しい手順はこうなります。
目標は大きく持っていいのです。ただしそれは、宇宙への注文書としてではなく、選択肢を広げてRASの設定を変えるためのものとして持ちます。そのあとは、現実の因果、つまり選択と行動と仕組みづくりに、淡々と手を入れていきます。直線的にがんばる部分と、設定が変わったことで勝手に変わっていく部分の、両方が働きはじめます。
願うのをやめて、この二段構えに切り替えたとき、僕の中で長年つかえていたものが、やっと流れはじめました。
引き寄せや自己啓発で、何年も迷子になっている人は多いと思います。学んだのに変わらないのは、あなたの能力の問題ではなくて、渡された地図の問題かもしれません。
このブログでは、その地図の描き直しをやっていきます。
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